出雲とトキ
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かつて、トキは出雲でも暮らしていた江戸時代中期の享保・元文年間(1716~1740頃)に編纂された『出雲国産物帳』にトキは「紅鶴」と記載されています。同時に「白からす」「牛からす」という方言名も併記されており、出雲地方においてトキは広く身近な存在であったことがうかがわれます。
近代においては、大正12年(1923)に島根県教育会から発行された『島根県誌』において、島根師範学校(現在の島根大学)の教諭であった雪吹敏光氏が「宍道湖にはしばしばトキ、ハクチョウ来る」と報告しています。
隠岐諸島では昭和中期までトキの生息が確認されており、こうした資料により出雲地方においてもトキの群れが生息していたことが確認できます。なぜ出雲でトキを飼育しているの?なぜ出雲市が飼育をしているのか。
それは、出雲市と中国の漢中市との友好都市としての歩みの中で出てきた話です。
出雲市と漢中市が友好都市協定を締結したのは平成8年。漢中市洋県にある陝西トキ救護センターのトキの認養(にんよう)を開始したのは平成12年からでした。
認養とは、中国で飼育されている一部のトキの飼育費用を出雲市が負担することです。
このように、当時の出雲市はまだ、間接的にトキの保護事業に関わっている段階でした。
出雲市がトキの認養を開始した平成12年、日本では佐渡トキ保護センターにしかトキはいませんでした。佐渡では前年の平成11年に友友、洋洋が到着し、同年優優が誕生しました。平成12年は優優のペアリング相手として美美が中国から届いた、そんな年でした。
平成15年に日中両国間で締結された日中トキ保護計画には日本側の主なトキ保護事業は「トキ保護増殖事業計画」に従って進めるとされており、平成5年に作られた「トキ保護増殖事業計画」では、トキの飼育は佐渡トキ保護センターにおいて行われるとされていました。
しかし、平成16年に「トキ保護増殖事業計画」は変更され、分散飼育の考え方が取り入れられると、出雲市はトキの分散飼育地として認めてもらうべく、漢中から講師を招いて講演会を開催したり、飼育員の養成や、トキ近似種の飼育を開始しました。トキ近似種のアフリカクロトキでも人工ふ化、人工育雛、自然ふ化に成功しました。
平成20年には分散飼育地としての決定を受け、平成21、22年度に出雲市トキ分散飼育センターを建設。
平成23年1月22日に佐渡トキ保護センターから2ペア(4羽)のトキが出雲にやってきて、出雲での分散飼育が開始しました。
漢中からトキを連れて来て飼育しようという構想から始まりましたが、佐渡トキ保護センターで飼育しているトキの分散飼育という形で出雲市にトキがやってきたのです。出雲市におけるトキの分散飼育の経過出雲市でトキを飼育しようという声が上がったのは、平成12年(2000)に中国の漢中市にある陝西トキ救護飼養センターのトキ認養をしてからでした。
平成16年(2004)にトキ保護増殖事業計画でトキの分散飼育が表記されてからは、出雲市を分散飼育地に指定されるよう国に働きかけ、平成20年(2008)には分散飼育地に決定されました。【出雲市におけるトキ分散飼育の経過】
1991年 中国漢中地区との交流をはじめる 1996年 中国漢中地区が“漢中市”に昇格、友好都市協定を締結 2000年 漢中市との交流の中で、陝西トキ救護飼養センターのトキの認養開始 2004年1月 国が「トキ保護増殖事業計画」を告示。佐渡のトキの分散飼育を「飼育個体の分散」として表記 2004年5月 トキの分散飼育実施地に指定されるよう国に要望。以後、要望を重ねる 2005年1月 NPO法人いずも朱鷺21設立・出雲市トキ保護増殖基本計画策定委員会を設置 2006年3月 環境省に「出雲市トキ保護増殖基本計画」を提出 2006年 出雲市トキ近似種飼育施設 完成 アフリカクロトキ5羽の飼育を開始,ショウジョウトキ4羽の飼育を開始 2007年4月 トキ近似種飼育施設で初めて、アフリカクロトキの人工ふ化に成功 2008年6月 環境省及び国のトキ飼育繁殖専門家会合の視察を受け、市の取り組みに高い評価を受ける 2008年7月 トキ近似種飼育施設で初めて、アフリカクロトキの自然ふ化に成功 2008年12月19日 環境大臣から「トキ分散飼育実施地」として決定を受ける ※石川県、新潟県長岡市とともに3箇所が決定 2010年7月 出雲市トキ分散飼育センター 竣工 2011年1月22日 佐渡トキ保護センターから、トキ4羽(2ペア)の移送を受け分散飼育を開始 漢中市出雲市が友好都市協定を締結している中国陝西省の漢中市洋県。そこは陝西トキ救護センターがあるところであり、1981年に中国で野生のトキが発見された土地でもあります。
かつて出雲市の空を舞っていたトキは、野生絶滅後、漢中市との交流を通して、また出雲市へと戻ってくることになったのです。トキの分散飼育とはなぜトキの分散飼育をすることになったのか。
それは、鳥インフルエンザなどの感染症が影響しています。
これまで、トキの飼育は、新潟県の佐渡市でしか行われてきませんでした。しかし、そうすると、仮に佐渡市で鳥インフルエンザなどの感染症が発生した場合、トキが全滅してしまうリスクが高くなってしまいます。
このように、鳥インフルエンザなどの感染症でトキが絶滅してしまうリスクを少なくするために、トキの分散飼育がおこなわれるようになったのです。
出雲市は、国内3か所の分散飼育地に選ばれ、平成23年1月に佐渡トキ保護センターから4羽のトキを飼育し始めました。平成22年1月にはいしかわ動物園(石川県)で、平成23年10月には長岡市トキ分散飼育センター(新潟県)でも分散飼育が開始されています。
また、鳥インフルエンザによる絶滅の危険が強まった平成19年には緊急措置として分散飼育に先立って、多摩動物公園(東京都)でもトキを飼育することになり、佐渡以外の日本国内でトキを飼育している施設は、4か所あります。出雲市トキ分散飼育センターの役割出雲市トキ分散飼育センターでは、佐渡市から遠く離れた出雲市でトキの分散飼育を行うことで、感染症によるトキの絶滅のリスクを少なくしています。
しかし、それだけではなく、出雲市トキ分散飼育センターでは、毎年「トキを繁殖させ、ヒナを育てる」という、重要なミッションがあります。
出雲市トキ分散飼育センターで生まれたトキのヒナたちは、その年の秋ごろに佐渡市に送られ、そこで訓練を受けた後、佐渡市で放鳥されています。
出雲市トキ分散飼育センターで生まれたトキたちが、実際に佐渡市の野生下に放たれ、その遺伝子は自然界で脈々と引き継がれています。
このように、出雲市トキ分散飼育センターは、トキを繁殖させ、ヒナを無事に佐渡市に送り届けることで、国のトキ保護増殖事業に大きく貢献しているのです。国内希少動植物種トキにはいろいろな肩書があります。国際保護鳥、国の特別天然記念物、国内希少野生動植物種、ニッポニアニッポンなんていう日本を代表する鳥であるかのような学名もついています。(国鳥はキジ)
トキの特徴の一つにその希少性が挙げられます。島根県のレッドデータブックでは絶滅となっているように、島根県の野生下には、現時点では生息していません。
また、環境省のレッドデータリストでは野生絶滅というランクに属していましたが、佐渡トキ保護センターを中心にかかわる人すべての方々のご尽力によって、平成31年1月24日環境省報道発表資料で、絶滅危惧ⅠA 類というランクに変更になりました。
なお、世界ではIUCNという機関のレッドリストでは絶滅危惧とされています。世界的に見ても絶滅の危惧はありますが中国では野生のトキが生息しているからです。
トキは「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」で国内希少野生動植物種に指定されており、国が保護増殖事業計画を定め、保護増殖事業を行うこととされています。
また、地方公共団体は環境大臣からその事業計画について確認を受けることが出来るとされており、出雲市も出雲市トキ保護増殖事業計画について環境大臣の確認を受け、施設を整備し、保護増殖、普及啓発に取り組んでいます。トキはどこで見れるの出雲市トキ公開施設でご覧いただけます。
しかし、出雲市以外でも、トキを見ることができる環境や施設はあります。
まず、トキ保護増殖事業の中心地である、新潟県の佐渡市(佐渡島)。
佐渡市では、放鳥されたトキや野生下で繁殖したトキを田んぼやあぜ道などで良く見ることが出来ます。
令和1年8月30日から野生トキ観察・展望施設(トキのテラス)が野生復帰ステーションの近くにオープンして、そこから、佐渡島の中央国仲平野が一望でき、タイミングが良ければ眼下でトキが飛来しているのを見ることができます。
また、飼育下のトキについては、以下の施設でトキを観察することができます。
★新潟県佐渡市 トキふれあいプラザ
★石川県能美市 いしかわ動物園
★新潟県長岡市 トキと自然の学習館/観覧棟「トキみ~て」